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日本は現在、第7次エネルギー基本計画、GX2040ビジョン、次期NDCの検討を最終段階まで進めており、パリ協定の1.5度目標への日本のコミットメントにも重大な影響を与えると考えられる。
日本の2035年温室効果ガス(GHG)排出削減目標が企業にとって懸念材料となっている。2024年11月下旬、政府は2035年までに2013年比で60%削減という温室効果ガス削減目標案を発表した。しかしこの目標は、JCLPが支持する75%以上削減やJCIが支持する66%以上削減の目標よりも低く、日本のような先進国が温暖化を1.5℃に抑えるための科学的根拠に基づく排出経路よりも大幅に低い(表1)。この60%減案は、経団連が提案したものと完全に一致している。
InfluenceMapは、日本の50以上の主要な業界・業界団体と40以上の企業に関する継続的な調査を実施しており、調査結果によると、2035年の温室効果ガス排出削減目標について明確な提言を行った経済団体は、JCLP、JCI、経団連の3団体のみであった。JCIの提言はIPCCの世界基準に基づいているが、先進国としての先行削減を前提としたIPCCの科学的根拠と最も整合的なのはJCLPの提言である。一方、経団連の提言は、これら3つの団体の中で最も野心的水準が低く、1.5℃目標の達成には及ばない。
日本の温室効果ガス排出削減目標 | IPCC科学的根拠に基づく政策 |
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日本の現行のNDCでは、「2030年度において、温室効果ガス46%削減(2013年度比)を目指すこと、さらに50%の高みに向けて挑戦を続けること」が掲げられている。
2024年11月末時点では、日本政府は「2035年までに60%削減(2013年度比)、2040年までに73%削減」とする新目標の取りまとめに向けて協議を進めている。 | IPCCのAR6シナリオでは、温暖化を1.5℃に制限し、オーバーシュートを発生させない、あるいは限定的に抑えるために、2035年には2019年比で世界的に60%(範囲49-77%)のGHG排出削減が求められている。これは 2013年比で66%減に相当。
経団連が提案する2035年目標(政府案と一致)は、2019年比でGHG50%削減に相当するものである。経団連は、これがIPCCモデルにおける世界の削減率49-77%の範囲内(5~95パーセンタイル)含まれるとしているが、この目標は範囲内で最も低い水準にとどまっている。 日本のような先進国は、「共通だが差異ある責任」の原則に基づき、世界平均を上回る削減目標を掲げることが求められる。IPCCの元科学者が主導するクライメート・アクション・トラッカー(CAT)は、IPCCのモデリングデータに基づき、日本の1.5℃目標と整合する2035年GHG削減目標を2013年比で少なくとも78%減と算出している。 |
GX政策項目とIPCCが各国政府に示しているガイダンスを比較すると、日本の気候政策の方向性は科学に基づく政策と大きく一致していないことが明らかである。これは、InfluenceMapが2023年11月に発表した報告書の要旨である:
日本の気候変動およびエネルギー政策は、企業がこれらの政策に最大の影響力を持つ経済産業省とどのように関与しているかによって形作られていると考えられる。
経団連、JCLP、JCIが示した2035年目標に対する立場は、日本における気候変動政策に関する多様な主張の幅広さを反映しているといえる。
下記の表は、経団連と、気候変動政策に賛同的な日本企業(主にJCLPおよびJCIによって表明される立場)の主な相違点を要約したものである。これらのJCLPとJCIの立場は、日経225銘柄の時価総額35%を占めるメンバー企業によって支持されており、IPCCが提示する1.5℃目標の経路に基づく科学的政策とも整合している。
政策 | 日本経済団体連合会(経団連) | 日本気候リーダーズパートナーシップ(JCLP) | 気候変動イニシアティブ(JCI) |
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2035年GHG排出削減目標 | 経団連は、日本のNDCについて、2013年比で2035年に60%、2040年に73%の温室効果ガス削減を提唱している | JCLPは、2035年までにGHG排出量75%以上削減(2013年度比)を求めている | JCI は、2035年までにGHGsを2013年比で66%以上削減を求めている |
カーボンプライシング | 2024年10月に内閣官房で行われたカーボンプライシングに関するワーキンググループで、経団連は、強力なキャップを導入することのリスクを強調するなど、より緩い規制でGX-ETSを支持しているように見受けられる | JCLPは、カーボンプライシングの実施を加速し、総排出枠に上限を設け、IEAのネットゼロシナリオで示された目標に匹敵する、温暖化を1.5度に抑制する価格水準を目指すことを提唱した(2024年7月) | JCIは、カーボンプライシングの導入を2025年に前倒しし、IEAが示した2030年までの130米ドル/t-CO2といった野心的な価格水準と、自主的な排出量取引制度ではなくキャップ・アンド・トレード制度を確保するよう求めた(2024年5月) |
再生可能エネルギー | 経団連は、再生可能エネルgのコスト負担を強調し、低コスト・安定供給・事業規律の維持を条件に再エネを支持するが、2024年10月の提言では、系統拡充、FITからFIPへの移行加速、PPA、風力発電の推進を支持した。ただし、バイオマスの火力混焼も支持している | JCLPは、2035年までに再生可能エネルギーの目標シェアを少なくとも60%にすること、PPAのガイドラインを明確にすること、浮体式洋上風力発電の設置目標を2035年までに20GW、2040年までに90GWに引き上げることを求めた | JCIは、2035年までに再生可能エネルギーの割合を65~80%にすることを求めた |
火力発電 | 経団連は、2024年10月のエネルギー基本計画に関する提言で、石炭火力発電とガス火力発電の段階的廃止期限には賛成しない姿勢を示し、代わりにCCS、DACCS、水素・アンモニア混焼への転換といった技術による排出量削減に重点を置くべきだと提案した。経団連は2024年9月の経済産業委員会で、2030年に向けて火力発電を30%削減することを支持したが、ガスの新規探査・生産、LNG火力発電所を含むインフラ投資も提唱した | JCLPは、「石炭火力発電を新設する余地はない」と提言。さらに、JCLPは、2024年7月のエネルギー基本計画に関する提言では、IGESの1.5Cシナリオを参照し、電源構成における石炭火力発電(アンモニア混焼を含む)の2035年以降の廃止、およびガス火力発電の2040年で構成比を3%とする急速な削減を支持した | JCIは、2035年までに石炭火力発電を段階的に廃止することを求めた |
自動車 | 経団連、電力に加え、水素、アンモニア、バイオ燃料、合成燃料のすべてを運輸部門で追求すべきであるとし、水素と合成燃料の脱炭素化については曖昧にしている(2024年10月) | JCLPは、「ハイブリッド車等の内燃機関車を含めた全方位追求型ではなく、ZEVに限定した野心的な新車販売比率目標の設定」を求めた(2024年7月) |
1 52の日本の経済・業界団体を分析の対象としている。そのうち41の団体は業種別の団体(いわゆる業界団体)であり、残り11は業界横断的な団体である。対象団体の選定は、雇用、経済性などを基に選定されており、詳細なメソドロジーや基準はInfluenceMapの2020年のレポートを参照されたい。
2今回はJCLP会員企業、及びJCIの2035年目標の提言と、JCIカーボンプライシング提言への賛同企業を対象としている。